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国際関係論基礎理論

このテスト対策集は、作成者が個人的に作成・編集したものである。よって、次の留意点を踏まえた上で、参考にして欲しい。
・ 参考としたのは、1998年度後期試験の問題である。
・ 作成者自身が分からない問題は割愛してある。
・ この対策集の内容を丸写ししても、単位がもらえるという保証はできない。あくまでも参考程度にしてほしい。
・ この対策集を丸写しするのではなく、必ず自分の言葉に置き換えて(自分の頭の中で再加工して)、解答を作って欲しい。そうしないと、テストの最中にアウトプットすることができない。
・ 前記の点を踏まえ、無断複写・転写を禁ずる。


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掲載項目一覧
※番号は1998年度後期試験の問題に対照してある。ない番号(3.13.15.18.19.20)の問題は、割愛してある。
1. 社会科学として国際関係論・地域研究の特徴、及びその対象・目的・手段
2.国際関係における行為主体の種類
4.資本主義の成立過程に関する経済史の業績としてのマルクス『資本論』
5.国際関係の大理論としてのレーニンの『帝国主義論』
6.マルクスの歴史認識の仕方と歴史の理論化の是非
7.ウォーラステインの世界システム論
8.国家の定義とその構成要素
9.主権の様々な定義
10.ナショナリズムの定義と役割
11.日本の政策決定の仕組みと特徴
12.アメリカ合衆国の政策決定の仕方と特徴
14.核抑止理論(保有と使用の区別)
16.国内類推とカント『永遠平和のために』
17.イギリス学派とヘドリー・ブルの国際社会論
■■■■■■【以下、自主設定問題(テーマは自由)】■■■■■■
21. 国力とは?
22.ウェストファリア・システム(ヨーロッパ近代国際体系)における国際規範とその機能条件
23.冷戦とは?
24.冷戦期における核抑止戦略としての相互確証破壊理論
25.「核の傘」理論
26.安全保障のジレンマとは?
27.北方領土の国際法的地位
28.竹島の国際法的地位
29.尖閣諸島の国際法的地位
30.台湾の国際法的地位
参考文献・論文・資料一覧


1. 社会科学としての国際関係論・地域研究の特徴、及びその対象・目的・方法
◆ 広義の国際関係論:狭義の国際関係論+地域研究
世界全体の問題を分析・理解する。
ex.環境、宗教、難民、人権、AIDSなど
◆狭義の国際関係論:「国際(Inter-national Relations)」の文字通り、国家対国家の問題を分析・理解する。狭義の国際関係論は、国際政治学や国際経済学とほぼ同じ視点から国家間の行動の結果生じる現象を分析・理解する。(国家外研究)
◆地域研究:地域や国家の文化的特性と、より普遍的な社会制度という2つの異なったアプローチにより、諸集団、諸民族、諸国家の行動様式や特質を内在的に理解する。(国家内研究)
◆ 国際関係論(狭義)と地域研究の共通点
@ 過度に専門化した社会諸科学の対極に位置する総合的な学問。
A 政治的、経済的、文化的などの側面が交錯した「場」に発生する諸問題を解明する。
B 様々なディシプリンの研究者が、共同研究を行う必要がある。
つまり、Interdiciprinary(学際的)かつMultidiciprinary(多専門的)→共同研究の「フォーラム」

2. 国際関係における行為主体の種類
◆ 行為主体(Acter)の4条件
:識別可能/意志決定・行動の自由/他の主体との相互影響/一定期間、存続可能であること
◆ 中心的な行為主体は国家。しかし、脱国家的主体や超国家的主体の出現が、その地位を低下させている。
◆国際主体:国際機構とも呼ばれる。国家(具体的には政府)を単位として構成されている恒常的な組織、政府間機構(Inter-governmental organization IGO)。
ex.UN、UNESCO、ILOなど
◆ 超国家的主体:構成国の政府をある範囲において拘束する権限を持っている。
ex.EU、ASEANなど
◆脱国家的主体:主権国家の枠組みから離れて、特定の国家の国益に束縛されず国境を越えた活動を行う主体。政府の外に権威の源泉を求める。ときに、国家を凌ぐ権威となる。
ex.多国籍企業、国際赤十字、IOC、各種NGOなど

4. 資本主義の成立過程に関する経済史の業績としてのマルクス『資本論』
◆資本主義体制:生産手段・生活資料を所有する資本家が、商品として労働力しか持たない労働者を雇って商品を生産し、その利潤を追求する方法を中心とした経済制度全般。そこには、資本家と労働者という2つの階級が成立、階級間・階級内闘争を繰り返す。
◆ マルクス『資本論』
@ 資本主義の成立過程を説明(イギリスを例に)
・商品経済の発達:農奴が富を生産→エンクロージャー進展→農奴の価値低下→農奴の都市流入
・プロレタリアの発生:身分的帰属性の喪失+生産手段からの解放(労働力以外なし)
・農奴の都市流入+技術革新→産業資本主義の自主的成立
A資本主義の競争社会を、ダーウィンの進化論を基礎にした弱肉強食の社会進化論(Social Darwinnism)で説明。つまり、「生存競争」による「自然淘汰」を人間社会に適用。具体的には、ある工業部門により高度な資本主義的生産方法が持ち込まれると、その部門では古い経営手法は消滅する。それは、地方生産者のみならず、全資本家、全産業、全国家間において生産条件をめぐる闘争となった。

5.国際関係の大理論としてのレーニンの『帝国主義論』
◆ 帝国主義は資本主義の最高段階
◆ 帝国主義の5つの特徴
@ 生産と資本の集中・集積による独占体の成立
A 銀行資本と産業資本の融合による金融資本の成立
B 商品輸出にかわる資本輸出の増大
C 独占体による国際カルテルの成立と、それに伴う世界市場の分割
D 帝国主義列強(資本主義大国)による植民地分割。
◆ 世界システムとしての帝国主義
:どれか一国が上記の特徴を持ち帝国主義を推進するのではなく、少数の列強が多数の植民地・従属諸国を従え、世界市場での支配を巡り互いに激しく争っている。

6.マルクスの歴史認識の仕方と歴史の理論化の是非
◆唯物史論:歴史の発展法則を弁証法的唯物論から解明する立場。生産力と生産関係の矛盾が社会発展の原動力とする前提で、歴史の発展を捉えようとする。
@ 客観的な、主として経済的な法則に合致した事件の動き
A 弁証法的過程を通して行われる思惟の、経済的な法則に対応した発展
B 経済的法則に対応する、階級闘争という形態の行動

◆ 階級闘争理論:人間社会の発展は生産関係と生産力との矛盾から発生している。つまり、
全ての社会現象は、その階級闘争の現れである。
◆ 歴史の理論化:歴史そのものを事実の列挙として捉えるのではなく、構造・システムとして捉える。
ex.人類の軌跡は階級闘争の歴史である(マルクス「階級闘争理論」)
→先進資本主義国内での階級闘争(生産手段の独占、貧富の差)は減少したが、南北問題として残されている。
ex.経済的「循環運動・長期変動」により、勢力均衡と覇権国家の出現を連環させた。それが近代ヨーロッパの発展の構造である。(ウォーラステイン「覇権循環論」)
→近代ヨーロッパのみ説明可能。普遍的な理論ではない。

7.ウォーラステインの世界システム論
◆ 「世界システム」は「世界帝国」と「世界経済」の二形態からなる。
◆ 「世界帝国」:経済的分業体制+政治的統合(ex.中国王朝、ローマ帝国、EU?など)
「世界経済」:@経済的分業体制+政治的"不"統合
→生産様式は単一分業制だが、政治的には多中心、文化には多様。
A「循環運動」と「長期変動」の2つの変動要因により「世界経済」は膨張する。
◆ 長期サイクル論(覇権循環論)
:従来の従属論は『富と利得は、グローバルな「周辺」から「中心」へ垂直的に動く』というものだったが、両者の間に中間領域としての「半周辺」を設け、世界システム内部での構造の複雑さと流動性を指摘した。そして、その内部では、経済的「循環運動・長期変動」により、勢力均衡と覇権国家の出現という連環が絶えず行われる。
ex.ハプスブルク家(16C)→オランダ(17C)→イギリス(19C)→アメリカ合衆国(20C〜)
※アメリカ合衆国は19Cに「半周辺」として誕生、19C半に「中心」に上昇。
・「中心」…生産と通商を支配して資本力を拡大する。
・「半周辺」…上昇志向が強い。
・「周辺」…「中心」の収奪先。

8. 国家の定義とその構成要素
◆ 政治社会(political society)としての国家=nation state
(国家は意志決定と行動の自由を持った自己完結的な政治的共同体)
cf.政治権力(political power)としての国家=state
(国家とは、一定の領域内に住民に対して暴力の独占を通じて正統性を主張する組織)
本項の記述は全て政治社会(political society)としての国家の説明である。
◆ 国家の構成要素:永続的住民、一定の領土、実効的政府、主権(対外・対内)
◆ 〈参考〉近代国家(nation state)の成立要素
@宗教的呪縛からの解放と科学精神 A国家機構の充実 B代表議会と社会の強化
C 国家間戦争の制度化 D民族主義(nationalism) E世界市場の形成 F工業化の進展

9.主権の様々な定義
◆ 今日、主権には以下の二つの意味がある。
@対外主権:国家が対外的にいかなる国家にも従属せず、国際法にのみ服する。(独立権、内政不干渉原則)
A対内主権:国家が領域内の全ての人やものに対し排他的な統治を行い、また、領域を自由に処分できる。(領域権、領域主権)

10.ナショナリズムの定義と役割
◆ ナショナリズム(nationalism)
:nationと呼ばれる集団が、一つの生活圏=文化圏=コミュニケーション網としての国民の統一、独立、発展つまり民族自決権を希求する意識の状態・思想および運動の総称。
:国家の全構成要素(問題番号8を参照)を結合させる(国民国家を形成する)精神的・情動的な力。
※国民とは?:共通の親近感が存在し、彼らだけの同一政府の下にありたいとの悲願を持つ一グループを国民(nation)を呼び、その国民感情は人種血統の同一性、言語や宗教の共通性、そして共通の政治経験(共通の歴史)によって形作られる。(John Stuart Mill) / →国家主権による統合
※民族とは?:民族とは、言語・地域・経済生活および文化の共通性の内に現れる心理状態の共通性を基礎として歴史的に生じ、構成された堅固な共同体である。(スターリン) / →歴史的文化的結合
※国民国家の理念:人類は国民と外国人に分けられる。そして、国民を超える結びつきはないから、国民こそ権力の至高の担い手であり、国家の主人である。
◆西欧型ナショナリズム:ローマ帝国以来の中世ヨーロッパの普遍性から分岐した地方的な特殊性、異質性を協調する意識。つまり、絶対王政で確立した国民国家の外枠の中身を結合させるためのアイデンティティー(共通点を持った共同体への帰属意識)としての役割。→主に対外的な異化を推進
◆非西欧型ナショナリズム:欧米列強の植民地支配からの独立(自由主義の発現)や政治的運命の構成員による自己決定(民主主義の発現)、また西欧起源の自由主義・合理主義への反発を目指す政治的闘争の原動力となる。独自の文化的伝統を極端に賛美する。→主に対内的な同化を推進

11.日本の政策決定の仕組みと特徴
◆ 議院内閣制(Parliamentary Cabinet System)
@ 行政府最高責任者(首相)を議会(立法府)が選出→厳密な三権分立ではない。
A 立法府と行政府の融合(首相を議会で選出/閣僚の過半数が国会議員/行政府が法案提出権を保有)
B 内閣が行政権を持つ(内閣は首相と閣僚の合議体)
C 首相が議会解散権を持つ。
◆大統領よりも首相の方が強力なリーダーシップを発揮できるとすればなぜか?→問題番号12を参照
◆政策形成の主体
「官僚優位論」:行政官僚が、政治行政に関して専門的知識と技術、情報量などについて卓越した影響力を有し、政策の形成を主導する。また、官僚機構が政権党から政策決定の大部分を委任されており、利益集団との共生の中で政策が形成されている。
「パワー・エリート論」:政治(政権党)、経済(財界)、官僚機構の各ヒエラルキーの頂点のエリートが、三位一体となって政策形成を支配している。
「限定多元論」:強力な官僚集団といえども「国権の最高機関」を支配する政党の意思と完全に対立することはできず、両者の関係は「協力」なるかたちを取る。また、政策決定のアクターは政権党、財界、官僚機構であるが、各々一枚岩ではなく多数の集団に分化している。

12.アメリカ合衆国の政策決定の仕組みと特徴
◆ 大統領制(President System)
@ 行政府の最高責任者(大統領)を国民が選出する。
A 立法府(議会)と行政府は相互に独立
a.大統領は法案提出権を保有しない(教書で要請するのみ)。
b.大統領は法案成立に関し拒否権を持つが、議会は2/3の成立で再可決できる。
c.議員と行政府(大臣・公務員)の兼任不可。
→立法府(議会)が絶対的な法案成立能力(=政策決定能力)を持つ。
B 行政権が大統領に属する。
C 大統領は立法府に対して責任を負わない。
◆ ロビイスト
:ロビイストは多元的利益集団と議員の仲介人。政策決定能力を持つ議会(議員)と接触し、雇用主である利益集団の有利に働く法案を制定させるか、不利な法案の制定を阻止する。このための合法・非合法の手段を用いる一連の活動が、一般にロビー活動と呼ばれている。
◆ 大統領よりも首相の方が強力なリーダーシップを発揮できるとすればなぜか?
※リーダーシップとは政策実施能力であり、政策実施能力を決定するのは法案成立能力である。
大統領制において大統領(行政府)に法案提出権がなく、また、厳密な三権分立により行政府と立法府が乖離している。その一方、議院内閣制において首相は、法案提出権を持つ上に、内閣の過半数の大臣とともに立法府の多数党(またはその最大派閥)から選出される。よって、立法府と行政府が融合しているために、法案をスムーズに整理させることができる。行政府はこの法律に基づいて政治を行うため、首相の方が強力なリーダーシップを発揮できる。

14.核抑止理論(保有と使用の区別)
◆核抑止理論:核兵器による先制攻撃を、核兵器による報復能力を維持することによって抑止する。この理論が成立するためには、以下の4つの必要前提がある。
[報復能力の維持/報復意志/政策決定における合理的判断能力/直面する事態に対する相互認識]
◆ 保有は国際法上違法ではない。また、核兵器の使用禁止を明示した国際法はないが、ハーグ条約およびジュネーブ諸条約追加第一議定書の解釈のしようでは、法的に禁止される。
※ ハーグ条約
第23条(ホ):不必要の苦痛を与える兵器、投射物其の他の物質を使用することを禁止する。
第25条:防守せざる都市、村落、住宅または建物は、いかなる手段によっても、攻撃または砲撃してはならない。
※ ジュネーブ諸条約追加第一議定書
第48条:平和住民及び非軍事物に対する尊重及び保護を確保するために、紛争当事者は、常に平和的住民と戦闘員とを、また非軍事物と軍事的目標と区別しなければならず、したがって、その行動を軍事目標に対してのみ向けなければならない。
(このほか、51・52・57・59の各条項に、軍事目標主義が記載されている。)
つまり、上記2条約で無差別攻撃による大量破壊を禁止しているため、膨大な破壊力を持つ核兵器は使用できないという論理である。
また、核兵器の保有はNPTやCTBTなどによって、保有国が限定(つまり保有可)されている。
◆ 冷戦期における米ソの核抑止理論は使用を前提とし、それを両国の合理的判断能力で回避する戦略であった。しかし、冷戦後は核拡散により、保有また潜在的核保有国であるという噂だけでも自国の外交を有利に進めることができる。つまり、核兵器の保有が、核兵器の使用を明言するのと同じ効力を発揮する。核の手詰まり状態(使えない状態)にある現在、核はブラフ(脅し)においてのみ、最もその効力を発揮する状況にある。
※ 冷戦期の米ソ核戦略については問題番号24を参照
※ 「核の傘」については問題番号25を参照

16.国内類推とカント『永遠平和のために』
◆ 国内類推
:国内現象と国際現象の間にはある類似性が存在する。特に国内秩序の諸条件は国際秩序のそれとよく似ている。それゆえ、国内的に秩序を維持している諸々の制度(法治主義・中央政府)を国際社会でも再現すべきである。→国際法と国際機構によって国際秩序を増進できるか?
◆ 『永遠平和のために』(カント、Immanuel Kant、1795年)
:現行の主権国家システムの無法状態を克服することを道徳的命題とする。
→個人間の自然状態と同様に、国家間の自然状態は合法状態に入るために放棄されなければならない。つまり、諸国家は、各個人が各々の国家の下で連帯する必要があったのと全く同様に、国際団体へと連帯しなければならない(ホッブス流の自然状態の拡大適応)。
※ホッブス『リバイアサン』(1651年)
「人間は互いに敵対し、その混乱を避けるためにリバイアサンに統治の全権を委任した」
→国内での自然状態のおける万人の万人に対する闘争の終結のために、国家に主権(自然権)を委譲する。
:第2確定条項
「国際法は、自由な諸国家連合に基礎をおくべきである」
「国家としてまとまっている民族は、個々の人間と判断してよい」
→国際社会で自然状態にある民族国家は相互に脅威を与えている。よって、市民的体制類似の体制(民族連合)へ移行すべき。つまり、国際連合の創設を支持。

17.イギリス学派とへドリー・ブルの国際社会論
◆イギリス学派:国内類推を否定(H.ブルに代表される)。国際社会は、それを構成している主権国家などの<部分>の単なる集りというよりは、むしろ何か独自の論理構造(システム・規範)を持つ。国際法、不干渉原則、勢力均衡、主権、大国の役割などを重視。
◆ ブルの国内類推批判
ホッブスのいう個人間の自然状態(純粋自然状態)が国家の登場をもたらしたのなら、どうして国家間の自然状態(国際自然状態)が"より巨大なリバイアサン"の創設に至らなかったのか?
→「個人間の無政府状態はとうてい耐え難いものではあるが、それにくらべ、国家間の無政府状態はある程度耐えられるものだった」(Hedley Bull)
◆ 国際社会論
国際社会は、国内社会と違って、「中央政府を持たない」という意味で、無政府であるけれども、独自の秩序を持つ。国際社会は、統一的な権力を持たずとも、主権国家が主権国家社会の伝統的規範(公式・非公式のルール)に準拠して行動するよりに秩序を維持される。(Hedley Bull)
つまり、国際社会は目的によって結びついた「目的共同体」ではなく、諸国家が互いに両立しない目的の追求にあたり、絶対の共通規範によって結びつけられた「規範共同体である」
※公式・非公式ルール:国際法、勢力均衡、外交、戦争、大国の役割(相互協力)など

■■■■■■【以下、自主設定問題(テーマは自由)】■■■■■■
21.国力とは?
◆ 社会科学におけるパワー(power)の定義
:ある主体が、他の主体に働きかけて自己にとって望ましい行動を取らせるか、自己にとって望ましくない行動を取らせないようにする能力。
◆ 国力(national power)=影響力および影響を与えるための手段
◆ 潜勢力(power potential)による測定
@ アクターの動員し得る資源(human and material resources)
A それら資源を行動に結び付けようとする動機と意欲
B 実際にその資源を利用して、効果的な行動に移すことのできる技能
国力は上記三要素の相互関係が作り上げる状況の関数である。
◆国力の例:軍事力、経済力、工業力、天然資源、政府・外交の質、地理的特性、情報力など

22.ウェストファリア・システム(ヨーロッパ近代国際体系)における国際規範とその機能条件
◆ ウェストファリア体制の構造:権力の水平的な分散
@ 国家主権/国家理性(国益>イデオロギー・普遍的正義)
A 国際法:戦争の制度化・限定化(戦争をする正義と戦闘における正義)
B 勢力均衡:一元的政治権力(覇権志向型国家)の樹立を阻止
◆ 国際規範の3要素
@国際体系における唯一の主要な行動主体は諸国家である。
A個々の国民国家内での問題には介入せず(内政不干渉原則)。
B国際間の紛争解決にあたっては、個々の国民国家の自由意志の発動を妨げない。
◆ 規範の機能条件
@ 近代国家の成立:中央政府の統治能力・政治問題処理能力の高度化
→外部主体の内政問題への介入を阻止
A 不可浸透性:国民国家相互間における、他国の影響力からの独立性・自立性
→限定戦争/自給自足経済/イデオロギーの伸長を阻止
→国際紛争の解決手段としての国家の自由意志の発動を容易にする。
B 諸国家の有する能力の均質性:勢力均衡の維持・強化
→一元的政治権力(覇権志向型国家)の樹立を阻止

23.冷戦とは?
◆ 冷戦:第2次世界大戦の戦後処理をめぐる連合国の分裂により生じた、ソ連を盟主とする社会主義圏と米国を盟主とする自由主義圏の対立(イデオロギー対立)。米ソ2カ国間による交渉不可能性、相互認識、非軍事的行動の応酬が繰り広げられたが、「直接衝突が全面核戦争へエスカレートする」という認識を米ソ両国が確証していたため、抑制機能が働いていた。。
◆ 冷戦の起源と展開
@ 米国の対ソ「封じ込め」政策/ドイツ管理問題/マーシャル・プラン
A 冷戦の「世界化」:米ソの代理戦争 ex.朝鮮戦争、ベトナム戦争
B 分岐点としてのキューバ危機(1963)
:キューバ危機は、戦略核兵器による威嚇を政策上の道具として使用するという極度に緊張した時代から、より危険性の少ない存立可能な国際システムへの路線転換の分岐点になった。
C 緊張緩和(デタント)の時代:部分的核実験停止条約、SALTT・U、INF全廃条約
CSCE→OSCE、CSBM(信頼醸成措置)など
◆ ヤルタ体制の再評価:ギャディス「永い平和」論(ヨーロッパ限定)
@国際システムとしてのヤルタ体制(冷戦)の安定化条件
・第3次世界大戦の防止、全面核戦争の回避…(同意された目的)
・二極化…(適切な構造)
・軍備管理、危機防止、政策・利害調整、経済協力…(共通に容認された手続き)
A核革命→核戦争へのエスカレーション/偵察革命→先制不能
B二極化…バランスの維持・強化によるシステムの固定化・静体化が、政策を現状維持志向に変更させ、それが安定化につながった。

24.冷戦期における核抑止戦略としての相互確証破壊理論
◆ 核抑止理論:核兵器による先制攻撃を、核兵器による報復能力の維持によって抑止する。
◆ 相互確証破壊理論(MAD Mutual Assured Destruction)
:他国から核の先制攻撃を受けた場合、自国に残された核戦力で相手に対して絶えられぬほどの大きな損害を与える能力(確証破壊能力)を相互に保有することによって、核戦争を事前に回避する。先制攻撃を受けた場合、残存核戦力で核攻撃に対し脆弱な都市を攻撃する。
◆ MADは、互いの都市人口を人質にした対都市型核戦略
ex.ソ連が核弾頭ミサイルでワシントンおよび米軍核サイロを攻撃したら、アメリカは残存核戦力の全てをもってモスクワを攻撃する。
◆ INF、SLBM、ICBM、戦略爆撃機などの核運搬手段およびABMなどの迎撃手段の向上により、MADの核バランスは崩壊の危機に立ったが、これら手段を制限することでバランスを維持。
※INF(中距離核戦力)、SLBM(潜水艦搭載型ミサイル)、ICBM(大陸間弾道ミサイル)、ABM(地対空迎撃ミサイル)

25.「核の傘」理論
◆「核の傘」:同盟国・友好国に対する武力行使を、核兵器の使用およびそれに伴う全面核戦争へのエスカレーションで威嚇することにより抑止する。
◆ 「核の傘」の個別的側面
@ NATOにおける「核の傘」
・NATO軍とWPO軍(ワルシャワ条約機構軍)の通常戦力不均衡状態の打開
→WPO軍の優勢な通常戦力に対して、米国の戦術核兵器を西欧に配備しその先制使用を宣言することにより、報復に伴う全面核戦争へのエスカレーションを相互認識し回避する。つまり、戦術核兵器の使用を宣言することにより、通常戦力による侵攻を防止する。
A 日米間の「核の傘」
・通常戦力バランスはヨーロッパほど不均衡ではないため、通常戦力への抑止ではない。
・日本列島と極東ソ連の人口可密度、産業・工業規模の不等価状態。日本>極東ソ連
→核の撃ち合いによって被る損害は極東ソ連より日本の方が圧倒的に大きいため、ソ連が先制攻撃に踏み切る可能性が高い。これを、核兵器による報復とそれに伴う全面核戦争へのエスカレーションで威嚇することにより抑止する。つまり、ソ連の核先制使用を防止。
◆ 「核の傘」の安定化への条件
@ 米ソ間の核戦争勃発の危険性を極小化する。
・核報復能力の維持(MADの機能維持)
・通常戦力の整備=通常戦力バランスの維持
(通常戦争から核戦争へエスカレートするため、通常戦争の勃発を防止する)
A 同盟国による米国の核コミットメントの維持・強化=米国との絆の強化
・利益共同体の構築
(自由民主主義を基本とする政治体制、自由貿易体制、資本主義体制→アメリカの国益に合致)

26.安全保障のジレンマとは?
◆ 安全保障のジレンマ(Security dilemma)
:各国は自国の安全保障のために軍事力を強化するが、それに応じて相手国の軍事力も強化されるため、依然として完全な安全を保障されない。各国はこの状況から脱却しようとますます軍備拡張競争を行う。(John H.Herz)
◆ ジレンマの深刻化要因→自国の安全保障政策が正しいか判断するのは相手国
@ 自国の戦略や兵器体系が攻撃型なのか防御型なのか、またどちらが有利なのかを判断するのは他国である。(Rovert Jervis)
A 他国が、自国の動機を純粋な安全保障のみであると見なしているのか、またはそれ以上の目的を追求する「貪欲な」ものと見なしているのかという問題の存在が発生する。(Clarles L..Glaser)
◆ セキュリティー・ジレンマの具体例
ex.台湾へのTMD配備
※TMD(Theater Missile Defense、戦域ミサイル防衛):アメリカで実験中の弾道ミサイル防衛システム
対中国ミサイル防衛のためにTMDが台湾に配備されれば、中国側はそれを「台湾の独立勢力を助長させるもの」と見なしてしまう。それにより、中国は台独勢力の一掃のために軍事的圧力を高める。場合によっては、TMD配備の前に台湾に対し先制攻撃を行う可能性がある。

27.北方領土の国際法的地位
◆ 歴史的事実:日露通交条約(1855)2条:択捉/ウルップ島
千島・樺太交換条約(1875)2款:樺太ロシア領、全千島日本領
→上記2点から、千島列島は暴力・強欲によって略取した地域ではない(合法的)。
→旧ソ連の千島列島領有は、連合国の領土不拡大原則に反しないか?
◆ サンフランシスコ平和条約の2条(c)二つの不備
※2条(c):日本国は、千島列島並びに日本国が1905年5月5日のポーツマス条約の結果として主権を獲得した樺太の一部及びこれに近接する諸島に対する全ての権利、権原及び請求権を放棄する。
@ 旧ソ連の講和会議不参加(この条約は、旧ソ連に対して法的拘束力を持たない)
A 千島列島の範囲の不明示(国後以北?国後、択捉は千島列島に入るのか?)
→不備があるにせよ、日本は千島列島を放棄
◆ 日ソ共同宣言:平和条約締結後、歯舞、色丹は日本に返還する(第9項)
※歯舞、色丹は千島列島に入らないという日露政府双方の同一見解がある。
→国交回復後「平和条約に関する交渉を継続する」(第9項)とあるが、領土問題をめぐるロシア国内での意見の不一致があり、平和条約に関する交渉はいまだに進展していない。

28.竹島の国際法的地位
◆ 本件に関する二つの論点
@ 日本が継続して竹島を支配していたかという実効支配に関する問題。
※1905年、日本政府はこれを島根県の所管とすることを決定、以来1954年まで実効的支配の継続。
※1954年、韓国による占拠状態。
A 連合国覚書(1946年1月)の法的拘束力と、サンフランシスコ平和条約2条(a)に竹島が含まれるかという問題。
※ 連合国覚書:竹島を日本から政治・行政上分離される区域の中に含めている。
→しかし、これは平和条約締結までの予備条約的性質のもので、日本の領土の最終処分を決定するものではない(法的拘束力なし・韓国も同意)。
※2条(a):日本国は、朝鮮の独立を承認して、斉州島、巨文島及び欝稜島を含む朝鮮に対する全ての権利、権限及び請求権を放棄する。
→2条(a)には、竹島は含まれていない。
◆国際法と国際政治の乖離から発生した問題。外交ルートでの解決ができない紛争は調停による解決にゆだねることを日韓交換公文(1965年)で決定したが、韓国は本件を紛争とは認めていない。→EEZ(排他的経済水域)問題があり、交渉は困難。

29.尖閣諸島の国際法的地位
◆ 以下の二点の理由により、尖閣諸島は国際法上日本の領土である。
@ 国際法上無主地であった尖閣諸島を沖縄県の所管とする政府決定(1895年)による領土編入以前に、同諸島が中国の領土であったことを示す決定的な資料が現存しない。
A 当該措置以降、日本は同諸島に平穏かつ継続的に国家主権を行使してきた。中国は実際、1970年代まで日本の統治権の行使に意義を唱えたことはなかった。
◆ 尖閣諸島領有問題の背景
中国の海洋発展戦略、海洋資源の確保、反日ナショナリズム

30.台湾の国際法的地位
◆ 地理的概念としての「台湾」:台湾島及び澎湖諸島→国際法上、「中国」の管轄権に属する。
政治実体としての台湾:中華民国→国際法上、未承認政治実体
※未承認政治実体:国家としての要素を全て備えているが、国家として承認されていない政治実体
※国家の定義とその構成要素については、問題番号8.9を参照。
※「中国」:シナ大陸に存在したまたは存在している政治実体の総称
◆ 本件に関する2つの論点
@ 日本放棄後の「台湾」は、どこに帰属するのか?
a.サンフランシスコ平和条約2条b項の不備
※2条b項:日本国は台湾島及び澎湖諸島に対する権利、権原および請求権を放棄する。
→日本放棄後の帰属先が不明示
→日本降伏から平和条約締結までの6年に、冷戦が勃発。国際法を置き去りにする形で国際政治が進展
→サンフランシスコ平和条約は、国際政治の妥協の産物
b.「台湾」は「中国」固有の領土か?
シナ大陸で古代より興亡してきた王朝が全て政府承継を行ってきたとする、つまり、「中国」は古代から間断なく続いてきた「一つの国家」であるとすれば、「台湾」の帰属先は「中国」にある。そして、「中国」を代表する政府の管轄権に属する。
A「中国」を代表する政府はどれか?
「2つの政治実体」の存在→どちらが正統政府か?
中華人民共和国政府(北京):1971年「中国」の国連代表権獲得→正統政府
中華民国政府(台北):1971年国連追放、「中国」を代表する正統政府の座を失う。
→現在も、「台湾」を実効支配(言葉は悪いが、いわば軍閥状態)
→中華民国から中華人民共和国への政府承継は不完全
※政府承継:一国内の政治社会体制の変更の場合における前政府の権利義務の新政府への承継問題。政府の非合法的な変更の場合でも、国家は同一性を維持し、一国内で政府が完全に交替した場合は、新政府は条約上の権利義務、在外資産を含み前政府の権利義務を引き継ぐ。

[参考文献・論文・資料]
総論
● 衛藤瀋吉ほか『国際関係論第2版』東京大学出版会
● J.フランケル『国際関係論』東京大学出版会
● 中嶋嶺雄『国際関係論』中公新書
● 浦野起央『完全増補 国際関係論の再構築』南窓社
● 加藤秀治郎、渡邊啓貴『国際政治の基礎知識』芦書房
● ハンス・J・モーゲンソー著 現代平和研究会訳『国際政治−権力と平和』福村出版

安全保障
● 猪口邦子『戦争と平和』東京大学出版会
● ゴードン・A・グレイク、アレキサンダー・L・ジョージ著 木村修三ほか訳『軍事力と現代外交〜歴史と理論で学ぶ平和の条件』有斐閣
● 初瀬龍平「勢力均衡の理論と検証」、日本国際政治学会編『国際政治』第74号「国際政治の理論と実証」
● 小川伸一「核の傘の理論的検討」、日本国際政治学会編『国際政治』第90号「転換期の核抑止と軍備管理」
● 岩田修一郎「米国核戦略の変遷」、日本国際政治学会編『国際政治』第90号「転換期の核抑止と軍備管理」
● 高木誠一郎「冷戦後の日米同盟と北東アジア−安全保障のディレンマ論の観点から」、日本国際問題研究所『国際問題』1999年9月号

国際法・国際機構
● 松井芳郎ほか『有斐閣Sシリーズ 国際法 第3版』有斐閣
● 杉浦高嶺ほか『現代国際法講義 第2版』有斐閣
● 最上敏樹『国際機構論』東京大学出版会
● 小田滋、石本泰雄編集代表『解説条約集』三省堂
● H.スガナミ著、臼杵英一訳『国際社会論』岩波書店
● カント著 宇都宮芳明訳『永遠平和のために』岩波文庫

その他
● 有賀弘ほか『政治』東京大学出版会
● 阿部斉ほか『概説 現代日本の政治』東京大学出版会
● E.H.カー著 清水幾太郎訳『歴史とは何か』岩波新書
● 川勝平太『文明の海洋史観』中央公論新社
● 『情報・知識 imidas2000』集英社
● 彭明敏、黄昭堂『台湾の法的地位』
● 坂本一哉「日ソ国交回復とアメリカ−ダレスはなぜ介入したか」、日本国際政治学会編『国際政治』第105号「1950年代の国際政治」
● 大西仁「ナショナリズムとアナーキズム−ウェストファリア・システムにおける国際規範の一考察」日本国際政治学会編『国際政治』第69号「国際関係思想」
● 拙稿、平成11年度現地研修レポート『台湾海峡問題の構造−「台湾」帰属問題と台湾をめぐる現状』

このほか、国際関係論、国際法、国際機構論(いずれも担当は臼杵英一助教授)などの講義プリントを多数使用した。

Writen by kota@98strangers

 

 

 

 

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